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VMDインストラクター協会は、お客様にとって快い売場環境を提供する売場づくりの資格団体です。

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VMDインストラクター 林 やよいさんを取材しました2022年3月

wine@EBISUのバーチャル・マーチャンダイジング

商品が取りやすいか確認している小林さん

林 やよいさん

シニアソムリエ

1.バーチャル・マーチャンダイジングとは

 VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)とは、顧客本位の売場づくりのノウハウだ。お客様が売場に興味・関心を抱き、売場を回って、商品を選んで、理解して、買うシーンを想定した売場づくりの手法である。VMDは今まで、リアルな店舗・売場をベースにしてきた。
 ところが、コロナ禍も相まって小売業が急速にDX化していった結果、商品を買う場はリアル・バーチャルどちらでもよくなった。自分が欲しいのものは自宅でも職場でも店でも買うことができ、時間と空間は問わなくなった。OMOという言葉はよくしたもので、オフラインとオンラインの融合という意味だ。融合なので、両者は離れているのではなく交わった関係にある。
 図1を見てほしい。買うという行為は、店でも自宅でもよい。スマホやタブレットというツールがあるおかげで、店や顧客同士が交わったり学ぶこともできるのである。VMDを担当する者は、今後、ビジュアル・マーチャンダイジングとバーチャル・マーチャンダイジング、この両面を駆使した買い物環境づくりに奔走しなければいけない。本稿で紹介するwine@EBISUのように。

2つのVMD図1 2つのVMD

2. wine@EBISUとは

 wine@EBISU(ワインアットエビス)とは(株)ブロードエッジ・ウェアリンクが2022年2月、東京恵比寿にオープンさせたワインショップ&バーである。端的に言うと、この店はVMDとオンラインの融合「バーチャル・マーチャンダイジング」そのもの。スマホで自分の好みのワインがセレクトでき、セルフで試飲から購入まで行える。800種類のワインの中からピタリと自分に合うものをチョイスでき、自宅やBYO店舗(酒類持ち込みOKの飲食店)への配送までスマホの操作で可能である。
 セルフで飲んで買える店だから、だれの気兼ねもいらない。コロナ禍に関わらず、連日満席というこのお店を客として訪ねてみた。ルポ形式で解説しよう。

wine@EBISU バーカウンターの様子写真1 wine@EBISU バーカウンターの様子

3.全自動で買い物体験できるwine@EBISU


3-1 スマホでワイン診断する

店に行く前に同社が作った「パーソナライズワイン診断」というサイトをスマホで訪れて、アンケート15問に答えてみた。「あなたはどちらが好みですか」という選択設問をタップしていく形式だ。「山菜のてんぷらと魚介のてんぷら、どちらが好きか」とか、「ピーマンとゴボウ、どちらが好きか」というような設問に答えていく。(写真2) 所要時間は3分で済む。すると「ワイン味わいマップ」が出てくる。(写真3)

パーソナライズワイン診断写真2 パーソナライズワイン診断


左から/ワイン味わいマップ、おススメワイン一覧写真3 左から/ワイン味わいマップ、おススメワイン一覧


 私におススメの白ワインは「w03 ガツンと濃厚系白ワイン」のようだ。果実味・複雑性・酸味のスコアと、味わいイメージや香りイメージが出てきた。例えば、香りイメージは「洋ナシ、桃、パイナップル、白い花、バニラ」が私にあっているらしい。さらに、詳細ボタンを押していくと、写真のようなオススメワイン一覧が出てきた。(写真3)
 2,230円から17,300円まで安い順に19本ボトルが並んでいて、各々「マッチ度」「商品名」「国・土地名」「品種」が掲示されている。そこでマッチ率92%の「テイクン/シャルドネ ナパ・ヴァレー2019」を選択。これで準備完了。
 ただ、私のように事前準備するよりも、店に行ってから椅子に座ってゆっくり診断してみてもよい。サイト登録から診断まで5分はかからないからだ。


3-2 専用コインを買い、自分でワインを注ぐ

 入店して、カウンターで専用コインを数枚買った。1コイン250円(税別) で、20mlのグラスワインが1コインか2コインで飲めるようになっている。カウンターで「本日のおススメワイン」を出しているが、今回は前述の「テイクン/シャルドネ」をまずは試飲だ。
 ワインバーの奥に8台のワインディスペンサーがあり、それそれに3つタップが付いている。24種類のワインがここで試飲できる。「テイクン/シャルドネ」はその中の一つにあった。コインを入れてボタンを押すと、ワインが出てきた。(写真4) 20mlだがこれで十分だ。濃厚なカリフォルニアワインを堪能できた。

ワインディスペンサーは自分でワインを注ぐ写真4 ワインディスペンサーは自分でワインを注ぐ


3-3 試飲したワインを買う

 おいしかったので、このワインと他1・2本のワインを買って帰ろうと思った。その時ワインソムリエが「テイクン/シャルドネ」が記載されているカードをくれた。味わい分類カードだ。カードはカウンターにズラッと38種類陳列されていて、だれでも好きに取ることができる。白(甘口)・白(辛口)・赤・ロゼ・泡→NOの順に分類されたおススメワインが記載され、すべて店内で試飲・購入できる。 (写真5)

味わい分類カード写真5 味わい分類カード


 このカードとスマホを持ってワインセラーに向かう。(写真6)ワインセラーは広く涼しい。800種類のワイン3,000本が16度に保たれているという。カウンター上のタブレット端末にスマホの会員用バーコードをかざして同期させ、「テイクン/シャルドネ」を表示させる。位置ボタンをクリックすると、「テイクン/シャルドネ」が置かれている場所を示したレシートがするすると出力された。A-w03の棚にあるらしい。書店で本を探す感覚に似ていた。(写真7)
 すぐに目当てのワインを探すと、もう一本似たような味のワインを買っていこうと思った。ソムリエのおススメで買ったのはw01のオーストラリアのワイン。似ている味のワインが上下左右に並んでいるので、店内を歩き回る必要はなかった。この2本をカウンターに持っていて購入終了。クレジットで決済した。

ワインセラー写真6 ワインセラー


ワインセラーではタブレットで位置を探す写真7 ワインセラーではタブレットで位置を探す

4.BYO促進の試み

 この話には続きがある。もし私が家で飲むのではなく、飲食店にワインを持ち込むとする。つまりBYOだ。その場合は、スマホのwine@のトップページに戻り、「BYOができるお店を探す」をクリックすればよい。試しに「恵比寿駅」で検索すると27件ほど出てきた。そのうちの「BEER& EBISU BREWERY」という店に持ち込む場合は、カウンターに告げるとよい。すると、「テイクン/シャルドネ」は「BEER& EBISU BREWERY」に直送してくれる。配送料もかからない。重たいボトルを手で持って行く必要もなくなる。
 しかも、かなりお得だ。例えばここで販売している5,000円のグレードのワインをレストランで飲むとすると、2倍の1万円はかかる。しかしBYOで飲む場合、持ち込み料を2,000円とすると、3,000円も得するのだ。
 同社取締役で事業企画・マーケティング担当も兼ねる橋本拓也さんは語る。「オーストラリアなどBYOが定着している国はありますが、日本ではまだまだBYOが根付いていないです。当社の仕組みを使ってBYOができる飲食店を増やしていきたいです。それはレストランや居酒屋だけではなくて、ファストフード店やラーメン店といった軽食店でもいいです。アルコールを扱っていない店舗でも、BYOシステムを取り込むことによって、持ち込み料という利益がそのまま店の収入になります。コロナ禍の今、ぜひ飲食店の利益アップを手伝っていきたいと思っています」
 同社はBYO促進だけでなく、ワインのレンタルも行っており、期間内に飲食店にワインを貸し出して、消化分だけ料金を徴収するサービスも行っている。富山の薬売りのようなしくみだ。このしくみは資金を節約したい飲食店に好評だという。

5.国やブランドに捕らわれないワインを多数取り扱い

 この店を知ったきっかけは、シニアワインソムリエの林やよいさん。当社が運営するVMDの学校「売場塾」つながりだった。以前売場塾を受講した彼女はVMDインストラクターとして、ワインショップの売場づくりに精通している。今回は同店の立ち上げから参画し、ワイン選びを始め、パーソナルワイン診断のアルゴリズム構築に多大に貢献している。
 「ワインの取り扱いに関しては、特定の有名な地域や銘柄に捕らわれない本質的な味のワインを揃えることから始めました。売れそうな国やブランド、ということでなくボトルの中身で勝負できるワインです。普通の酒店では棚からはじかれるワインもここで扱っていますし、スロバキアや中国などのワインも多数セレクトしました」と林さん。店内800種類以上のワインのデータベースづくりも慎重だったという。
 「ワインの味に対する評価は人によってバイアスがかかっています。メーカーや卸会社だけでなくソムリエもそうです。私たちは、バイアスをなくして客観的に評価したものを1本1本ていねいにデータ入力しました。初めての試みで苦労しましたが、そのため、ワイン診断の精度は格段に上がりました」
 ワイン初心者、特に若い人にとって、おいしければどこの国や地域でもいいかもしれない。ここでは無印の良質ワインを、自分好みの味から探すことができるので失敗は少ない。しかも、常時30種類のワインを250円から飲んで試すことができる。テイスティングバーが併設されているワイン専門店でもやっていない試みが、この店では始まっていた。

6.ライトユーザーを狙ったカフェ感覚のワインショップ

 こうした業態を同社が立ち上げた理由は、買うのに難しいワインをやさしく気軽に買えるようにしたかったからだという。若者はショップの店員に接客されるのを好まない人が多い反面、セルフで買おうとしても棚にずらりと並んだワインを見ても買い方がわからない。ソムリエと会話するのも辟易してしまう。そこで、味のマッチング、試飲と購入という流れをオートメーション化したのである。
 とはいえ、当初は40代〜50代のミドルが来店するのではないかと予想していた。だが、この予想は大きくはずれた。実際は20代前半から30代の来店客が多く訪れる。
 橋本さんがそのきっかけとなった動画をスマホで見せてくれた。「店がオープンして間もないころ、インフルエンサーの女性が来店しました。彼女がTikTokでこの店を紹介してくれたら、それを見た若い人がたくさん来店してくれました。圧倒的に二人での来店が多いです。男女カップルか女性同士が中心です」
 「おおさこ・デート情報」で検索すると出てくるこのチャネルは、若い女性が同店を動画でレポートしている。彼女のフォロワーは12万人だ。なるほど、確かにここはリーズナブルなデートスポットだ。恵比寿のオシャレな空間で、ゲーム感覚でワイン診断にトライ、しかもたった1,500円で好みのワインを7杯も飲めるのだ。カフェ感覚で来店できる。しかし、客単価が低すぎはしないだろうか?
 「通常のワイン店は、お客様をヘビーユーザーに育てて、単価の高いワインを買わせる方向へシフトします。ワイン初心者のすそ野を広げて次第に高みへ持って行く。でも、そうしたマーケティングが正しいのか疑問です。ワインの購入客は、深くワインにはまりたい人と、浅いままでよい2種類の層があると考えます。ライトユーザーを無理にヘビーユーザーに持って行かずに、ライトはライトのままでいいじゃないかと。ライト客の層を厚くしキープする方向に走った方が、得策だと思います」と、林さんは以前からの持論を語った。
 ワインショップがライトユーザーを無理に深みにはまらせていくのは、逆に顧客乖離につながることが多いという。例えば、甘口のワインが好きな人は、なかなかそれを店主に伝えられない。「甘いワイン好きはワイン知らず」というレッテルを貼られるのがいやだからだ。しかし店に勧められて買った辛口のワインを飲んでも自分の口に合わない。それが理由でしだいにワインから遠ざかってしまう。この悪循環を断ち切らねばいけない。この店が甘いワインの分類を設けているのもうなづけた。

7.ライトユーザーの味覚を育てる「ワイン飲んだ登録」

 だが、ライトユーザーはライトユーザーなりに成長することができるのもこの店の特徴だ。成長というのは、味の好みの成長だ。先ほどのwine@EBISUのマイページ画面に戻ろう。  マイページ画面には、先ほど私が購入した商品が掲示されており、その中の「飲んだ!」をクリックすると、評価とコメントができるようになっている。おいしかったので、評価は最高の5つ星にし、コメントを書き込んだ。ワインの色を記録したいので、グラスに注いだ写真をスマホで撮ってアップ。すると、写真8のように記録された。ワインブックのようだ。

ワイン飲んだ登録の画面写真8 ワイン飲んだ登録の画面


8.新しい時代のワインVMD

  本稿の締めくくりとして、ワインVMDについて述べたい。バーチャルでなく、ビジュアル・マーチャンダイジングの方だ。ワインセラーに戻ってみよう。VMDインストラクターでもある林さんがつくったワイン棚は、とてもシンプルだ。図書館の本棚のごとく、静かにワインを探せる部屋になっている。
 先ほどのワインカードを思い出していただきたい。ワインカードと同じ38種類38色に分けられたプライスカードが棚にグラデーション展開されている。POPなど販促物は他に何もない。普通のワインショップならば、赤白別、国別などの分類POPが掲示されているがそれもない。すべてはカード通りの陳列になっているので、味別→NO別→価格別にワインが棚に鎮座している。
 プライスカードはカードと同じ最小限の情報しか書いていないが、表記されているQRコードをスマホで写せばwine@EBISUのワイン情報サイトに飛ぶようになっている。
 さらに林さんならではの茶目っ気もある。ジャケ買い棚だ。ボトルのデザインが楽しいものを中心に集めた棚もあり、見て楽しめる売場になっている。CDショップではジャケットのデザインが気に入ってCDを買う人も多い。それをヒントにしたという。
 オレンジワインの売場もおもしろい。最近オレンジ色のワインも流行で、トレンドに敏感な若者がSNSの話題にしそうだ。

シンプルで見やすいワイン棚写真9 シンプルで見やすいワイン棚


ジャケ買いが楽しめる棚写真10 ジャケ買いが楽しめる棚


 最後に今後の予定を橋本さんに訊いてみた。
 「今後は、サブスクもはじめる予定で、気軽にワインが飲める機会をつくっていくのが当社の使命だと思っています」
 コロナ禍、居酒屋をメインチャンネルにしているビール業界は低迷しているが、ワイン人気は徐々に高まっている。オーガニックワインやノンアルワインも人気で、巣籠の中で楽しむ嗜好品にもなってきた。wine@EBISUはカジュアルな場と商品をワインでつなぐ新しい売り方を提案していく。

(株) ブロードエッジ・ウェアリンクの橋本さん(左)と林さん写真11 (株) ブロードエッジ・ウェアリンクの橋本さん(左)と林さん


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