本文へスキップ

VMDインストラクター協会は、お客様にとって快い売場環境を提供する売場づくりの資格団体です。

電話でのお問い合わせはTEL.03-5484-6735

〒108-0073 東京都港区三田2-14-7 11階

VMDインストラクター 岡宮 晴子さんを取材しました2010年2月

手づくり商品という幸せを運ぶ クローバーになりたい

VMDインストラクター 岡宮 晴子さん

岡宮 晴子さん

クロバー株式会社

プランニングセールス ディビジョン

店舗開発グループ

 デコクロという言葉を知っているだろうか? シンプルな服を、手芸用品を使ってデコレートすることを言う。手っ取り早く言うと、ユニクロのようなシンプルで安い服に刺繍したり、布用のインクで好きな柄や絵を書いたりして、自分オリジナルの服にすることを言う。

 今やデコクロのサークルが次々にでき、ネットでコミュニティを開いたり、手芸専門店や服飾学校でワークショップをしたり、作品発表会をしたり、バザールをしたり・・・と各地でイベントが盛り上がっている。しかも、参加者はほとんどがヤング女性だ。

「デコクロのおかげで、手芸業界に追い風が吹いています」

 そう語るのは、クロバー株式会社の岡宮晴子さん。クロバーは手づくり用具の総合メーカーで、編み物、手芸、ソーイング、パッチワーク、刺繍などの用具を製造している。家庭にある刺繍箱には必ずと言っていいほど同社の製品が入っているは周知の事実。針とかハサミとか編み棒とか、三つ葉のクローバーのマークが入っているあれだ。筆者も中学時代、家庭科の時間にお世話になったことだろう。

「それは昔の話。今では、家庭科で編み物をするなんて珍しいんですよ。私も家のタオルを使って雑巾をつくったことはあります。でも、今の家庭科で、そういう授業はないように思います。雑巾は100円ショップで買えますし、マフラーやトートーバッグもスーパーや専門店で安いものが手に入る時代になってしまいましたから(笑)」

 母さんが夜なべして手袋を編むよりも、しまむらで買ってきた方が早いというわけだ。子供の運動会の弁当もコンビニ弁当が多くなってきた現代は、文字通り飽食の時代。趣味の手づくりをする機会は、ヤングの間で特に少なくなってきた。そこに、デコクロブームが到来。手づくりをする行為には、必ず用具が必要になって来るので、同社もこうした行為を後押ししている。昨年9月には、趣味のサークル「デコクロ部」と共に、新宿マルイにてデコクロ用品・用具を販売する期間限定のイベント店舗を設けた。

 彼女手製のデコクロを披露してもらった。カットソーのネックラインと肩部分に、チュールレースを貼り付けている。なるほど、確かに既製品とひと味違った華やかさプラスかわいらしさが醸し出されている。これが手芸用のボンドでカンタンに貼り付けられるというからお手軽だ。

岡宮さん手づくりのデコクロ 岡宮さん手づくりのデコクロ

「でも、デコクロは最近のこと。当社はそれ以前から、若い方向けに手づくりに興味を持てるような活動をしております。ひとつがニットカフェ・ニットアウトというイベント。ひとつが直営店の展開です」

 ニットカフェというのは、東京都内のカフェで定期的に開催される、手編みのワークショップ。ニットアウトというのは、大人数を集めた戸外の手編みのイベントだという。2005年から始めている。

  直営店に関しては、前述のニットカフェに物販機能を付加した同社の実験店舗。2006年からスタートしたこのプロジェクトに携わることになった彼女は、小売の経験はまったくなかった。やったことのないストアデザインから品揃え、販売員の募集と教育、集客とPR・・・そんなことがごまんとあった。直営店のオープン前は2〜3ヵ月間、現地泊まり込みで働いた。休みは全く取れなかった。

 しかし、カフェで編み物体験ができることを売り物にしたニットカフェは、ワークショップのおかげで若い客を集めることができた。

「今までの編み物は、おばさまが趣味で行う・・・というようなイメージでした。開店してみたら、若い方が来られるようになりました。カフェというオシャレな空間で、誰もが肩の力を抜いて簡単に参加できるワークショップは、初心者の心をつかみました。

 アンケート調査では、若い方は、編み物ってやってみたいけど、やる機会がない。でも教えてもらえれば習いたい・・・という方が多かったです。そこが、道具をもっていなくてもカフェで気軽にワークショップできる、という試みに賛同していただけた理由だと思います」

 一人でも参加でき、作品づくりで知らないもの同士が打ち解け、友達になったケースも多いという。その友達が、家族や他の友達も連れてきてくれて・・・と確実に輪が広がっている。しかも初めて手芸用品を買う人もいて、同社製品のファンづくりに結びついている。

「店には、週に1.2回行っています。ワークショップのセッティングをしたり、商品説明をしたり、在庫状況を見たり、とせわしないですが、一番いいことはお客様と接触できること。お客様の声が一番参考になりますね」

ワークショップ風景

 同社の商品は、言葉で伝えることが多いという。手芸用品は何に使うのか、商品を見ただけではわからない人が多い。そのため、売場に立っていると、商品について頻繁に聞かれる。

 例えば、チャコペンというものがある。裁縫をするときに布に印を付ける道具だが、そもそもチャコペンを知らない人が多い。知っていても、布につけた線が消えないと思っている人もいる。だから、チャコペンとはどういう時に使うものか、使ってどうなのか、など細かく伝える必要がある。

「ポンポンメーカーもそうですね。これはポンポンをつくる道具ですが、商品を見ただけでは何をつくる道具かわかりません。円形のプラスチックの型だからです。店員が売場にいればお客様は聞くことができますが、常にそういう状態とは限りません。そこで、POPを売場に設置したり、パッケージを見ればある程度情報がわかるように工夫する必要があります」

ポンポンメーカーのパッケージとPOP

  もともと玩具メーカーの商品企画部にいて、商品のネーミングやパッケージを考えていた。でも売場に置かれる状態から発想することはなかった。今回小売をやって初めて、商品は売場から考えていかないとだめだ、ということを身をもって知った。

 しかも、店に来る客のほとんどが編み物の素人。編み物を知り尽くして製品をつくっているメーカーとは立場が違う。売場づくりって意外と重要なんだな・・・と感じるようになった頃、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)という言葉を知った。売場づくりの理論なんてあるのか、と関心した。VMDのサイトを探したり、セミナーに出たりして研究し始めた。売場塾というVMDの学校があるのを知ったのもサイトだった。

手芸店を模した同社の展示会ブース

 VMDのディスプレイのつくり方は、商品の見せ方であるAP(アーチクルプレゼンテーション)に始まり、見やすい棚割としてのIP(アイテムプレゼンテーション)、フロアでの注目を集めるPP(ポイントプレゼンテーション)、お店の立ち寄り率を上げるVP(ポイントプレゼンテーション)があるなど、商品そのものから店舗のディスプレイを考えていくという、売場づくりの順番があることを知った。学校を受講してみて、自分の考えが間違っていないことを確認できた。

 アクセサリーパーツのディスプレイ「ビジュアルマーチャンダイジングで知り得た知識を今度は、別の売場でも活用したいですね。例えば、ウエディング。リングピローというものがあります。これはマリッジリングを乗せておく枕のこと。神父さんが、壇上に持ってくる、あれです。これは生まれ来る赤ちゃんの枕にもなるという、大変おめでたいものですが、これをつくりたい!という新婦さんが増えています」

 

「ウエディング小物として、リングピローを提案しているわけですか」私は聞いてみた。

手づくりリングピロー(写真左右端)のディスプレイ

「結婚式場や貸衣装店・式場予約センターなどに売場を設置して、ウエディングの支度をされる方に手芸を提案したい・・・と思っています。ウエディングというキーワードだけでも実にいろいろな手づくり品が考えられるからです。先ほどのリングピローもそうですが、ウエルカムボートやテディベア、フレームやアルバム、そしてウエディング衣装・・・とお二人の思い出づくりとなるキッカケをつくるスペースをつくっていきたいと思っています」

 ギフトショーではウエディング・クラフトコーナーを設置 同社の商品である針とハサミを展示してもおもしろくもなんともないだろう。それを使って、どんなものがつくれるか、どんな風につくるのか、がないと売場は楽しくなくなる。写真はクリエイターの作品をディスプレイしたものだが、実に楽しそうな雰囲気ではないか。こんなものを売場として提案したいという。

  しかも彼女のいるプランニングセールスディビジョンは、もともと販路開拓が主な業務。直営の実験店舗が一段落した今、専門店以外のチャネル開拓に主軸を移しつつある。

クリエイター作品をショップからの提案として使用

「手芸専門店は、目的がないとなかなか入れないもの。でも何かのきっかけで目が行き、手芸もいいな、と思ってもらえる機会が必要だと考えています。先ほどのウエディングの話もそうですが、何気ないところにお客様と手芸の接点を見出した販促策を練っています」

 将来的にアパレル店や美容院もターゲットに考えているという。髪のアクセサリーとして、シュシュやヘアゴム、カチューシャなどのクラフトワークを現場で提案できたら、と思っている。そう考えると、チャンネルはどこにでも作れる気がする。

「手づくりのよさは、思い出をつくれるところ。つくる人にとって行為自体が思い出となり、贈られた人も、人生の記念になります。それは、いつまでも残しておけるものなのです。こう考えると、私たちの商品づくりとは、幸せをつくる仕事だと言ってもいいかもしれません」

 ステイタスを求めるなら、ヨーロッパのブランド品を買った方がいいだろう。でもつくり手の真心を感じ、思い出をいつまでも所有することができるのは、手芸のいいところだ。ハンドクラフトとは、エコとか職人とかいう切り口ではなく、「幸せ」という布で包まれた、ほんわかとしたハートが切り口になった商品と言える。

  彼女はまさに、幸せを運ぶクローバーでありたいと願っているのだ。

一覧ページに戻る