ヴィノス山崎」タグアーカイブ

ワインのエンド売場

買うのにわかりにくい商品をどうVMDでわかりやすくするか

1.ワインやコーヒーの自分の「定番」を探してみた

ワインにしてもコーヒーにしても専門店にはズラリ商品が並んでいます。
10どころではなく、20も30も同じように見える商品が並んだ中から、いつも選んで買っていると思います。
売場を目の前にして何を買おうかとまどっている人は多いと思います。

ただ、こんなことはありませんか。

  • とりあえず、お店のおススメというPOPのついた商品を買う。
  • 店員さんがススメる商品を買う。
  • 「特売」の商品を買う。
  • エンドやテーブルに同フェイスがたくさん並んでいるものを買う。

通でもない限り、じっくり探すというよりも目についたものを選ぶ感じで買っていると思います。
特に上の写真のようなエンドや特売売場で買う人が多いですよね。

そんな買い方をしていた私はある日、買い方を工夫してみよう!と思い立ちました。
毎回、意思なくワインを買うのに疑問を感じたからです。

ワインやコーヒー、クラフトビールといった、ひとつひとつ選ぶのに難しい商品を、買いながら記録をとることによって、どの商品を買えば自分にとってよいのか、研究してみました。
そして数年間、記録を取り今も続けています。

20も30もあるような種類のワイン、クラフトビール、コーヒーを違う商品を買いながら、ひとつひとつ写真に撮り、下記の項目を記録しています。

ワインブック
  • 産地または国
  • 商品名
  • 店名
  • 購入日
  • 価格
  • 数量(グラムやリットルなど)
  • 味や香りの感想

ワインは下記が加わります。

  • 国名
  • 地域名
  • メーカー名
  • 卸会社名

ワインとクラフトビールはアルバムを作り、五つ星~一つ星にページを分類しました。

記録していたら、ワインは424本、クラフトビールは272本になりました。我ながらよく飲みました。(笑)
コーヒーはいろいろなメーカーや産地、販売店のコーヒー95種類に。

すると分かったことは、下記でした。

●おいしいと思った商品は必ずしも、店舗のおススメやエンドの大量陳列と一致するとは限らない。
●おいしいと思った品種や銘柄はほぼ3か月に一度は繰り返し買うようになる。
その数は、コーヒーで10銘柄、ワインで50銘柄、クラフトビールで30銘柄。
それが自分にとっての定番である。
その中でさらにハズせない銘柄を数種類に絞り込むことができる。
●おいしいと思った商品はいつも買えるとは限らない。


品切れまたは販売中止になっていることも多い。ワインに関しては1000円台~3000円くらいのまでのワインで、ほぼ3つの店で買っています。ワインとクラフトビールはアルバムを作り、五つ星~一つ星にページを分類しました。
それは柳屋、成城石井、ヴィノス山崎、信濃屋です。
下記で店舗を紹介しているのでご覧ください。

●顧客戦略「インテリジェント・コンシューマー」

各銘柄の記録は、ワインを例にすると次のような感じ。

  • NINE STONES シャルドネ オーストラリア アデレードヒルズ 成城石井 2500円 13.5%
  • Three Thieves ピノグリ 米国 カリフォルニア 柳屋 2500円 13.5%
  • アッサンブラージュ フランス コート・ドガスコーニュ 成城石井 2000円 12%
  • ストーンヘッジ ゲベルツトラミネール 米国 カリフォルニア ヴィノス山崎 3000円 14%
  • キューン フランス アルザス ピノグリ 信濃屋 13.5%
  • KONO ソーヴィニオンブラン ニュージーランド マルボロ トフ 成城石井 2000円 12%

という感じで5つ星で50くらい銘柄はあるんですが、だいたいよく買うのはさらに半分に絞られます。
ワインについての定番は、ざっくり書くと、下記になります。

  • 国はフランス イタリア ニュージーランド 米国 日本がメイン
  • 地区はフランスはラングドッグ、イタリアはソアーベ、ニュージーランドはマルボロ、米国はナパ、日本は甲州
  • 品種はシャルドネ ピノグリ ゲベルツトラミエール ソーピニオンブラン リースニング
  • 度数は10%~14%
  • 価格は2000円台

こんな感じで、買ったワインはほぼすべて記録しているので、我が家の定番、私の定番というのができてきました。
ある理由で買うワインは白に偏っていますが。(笑)

そもそも「何が自分の定番か」が、購買者にとってはぼんやりしていると思います
一般客は、いちいち買ったワインを記録していないので、買ったワインの情報はすぐに忘れてしまうかもしれません。
しかも、よほどのことがない限り、商品名をすらすら言える方は少ないでしょう。
なので、先ほど言ったように

  • とりあえず、「お店のおススメ」「特売」というPOPのついた商品を買う。
  • 店員さんがススメる商品を買う。
  • エンドやテーブルに同フェイスがたくさん並んでいるものを買う。

という循環に陥ってしまい、永遠に私や我が家の定番のワインとはどのようなものかわからないままになってしまいます。
「たかがワインだから、安くてうまければいい」という向きもありますが、せっかく専門店・専門売場で購入しているので、それではもったいないと思います。
店側にしても、顧客をナーチャリングして、自分にとっての定番を毎回買ってくれるロイヤリティ高い客にしたいはずです。
ナーチャリングとは、ワインの買い方や飲み方を教えるという意味です。

そこで、個人的な趣味も兼ねて、顧客がワインやコーヒー売場に通い、自分の好きな商品に出会え、自分の定番をつくることができないか、VMDの観点から考えてみました。

2.お客様の「定番」をつくる仕掛けとは

ワイン売場

まずは顧客の行動をおさらいしてみましょう。
上の写真を見てください。
ワインがズラーり、並んでいますね。
「たまにはワインを飲んでみようかな」と思ったあなたはワインを1本買うとします。

すると、VMD分類サインは下記のようになっていました。
下記はよくある売場分類パターンです。

・大分類/ 国別
・中分類/ 赤・白・ロゼ別
・小分類/ 価格別

ただ、店の入り口には「おススメワイン」売場があります。
時間がもったいないあなたは、この「おススメワイン」で値ごろなワインを感覚で買い、レジに行くでしょう。
メイン売場は見向きもしませんでした。

これが通常のパターンでしょう。
それはそれでいいのですが、店側としては特売だけではなく、お客様の「定番」をつくる仕掛けをVMDでつくります。

そこで方法としては

1.来店頻度が高くなっていくにつれて客の「定番」が浮かび上がっていく工夫
2.定番がわかるにつれて店頭の特集売場からメイン売場へ客を行かせる工夫
3.メイン売場ですぐに客が自分の定番を検知できる工夫

とったVMD施策となります。

 

3.客の「定番」が浮かび上がる「おくすり手帳」方式

ヴィノス山崎

私のようにいちいち記録をつけていられない顧客は、どうやっておいしいと思ったワインを記録し、思い出すか。

そのヒントが「ヴィノス山崎」さんにありました。
ヴィノスさんのワイン売場はPOPがそのままワインカードになっていて、私が先ほど記録していたうち、下記の情報が持ち帰れます。

  • 赤・白・ロゼ
  • 産地または国
  • 商品名
  • 品種
  • 味や香りの店の感想
ヴィノス山崎のワインカード
アルバムの中のワインカード

「おいしかったなー、このワイン」。
と思ったあなたは、そのワインカードをそのままキッチンや机の引き出しに保管するだけでいいんです。
次買う時は、そのワインを買うか、それと似た味のワインを買えばいいんです。

・同じメーカー
・同じ国
・同じ品種 を買えばいい

という自分なりの工夫をするようになっていきます。
逆においしくなかったワインは、ワインカードにバッテンをして保管します。

工夫をするのも面倒な人は、とにかくいつも買ったワインのカードを机の中に入れておいて、たくさん溜っていて、バッテンのないカードのワインを買えば、失敗がなくなります。
しばらくすると、自分の「定番」を定着させることができます。

要は、調剤薬局の発行する「おくすり手帳」と同じと考えるとよいです。
「おくすり手帳」があれば、次に薬を買う時に失敗することがなくなります。

一番いいのが、調剤薬局の薬剤師のようなソムリエが売場にいてアドバイスできるのがいいのですが、スーパーのワイン売場にはそうそうソムリエはいません。
セルフ買いのワイン売場を運営しているスーパーや専門店は、簡単に記録できる方法を、ヴィノス山崎さんみたいに売場に設ければいいんです。

「プライスカードにQRコードを付けて、それをスマホで撮ってもらうといいよね」
とあなたは思うかもしれませんが、意外とそれ面倒なんです。
スマホで撮るのも面倒だし、あとから画像を探すのも面倒なんです。

下の写真を見てください。
私がよく買うコーヒー店のQRコードですが、これ一度も写真を撮ったことないんです。
意外とスマホを向けて写真を撮り、後でネットで見てみる人は少ないのではないかと思います。

ヤナカ珈琲のPOP


以前、取材した売場塾卒業生の運営するワイン売場では、ヴィノス山崎さんのような感じでワインカードを配布していました。
下記を見てください。キレイなカードですね。
思わず持ち帰ってしまいます。
店舗スタッフは、顧客が買ったワインカードにそっとこのようなカードを忍ばせればいいんです。

ワインカード

このお店、wine@EBISUというんです。
詳しくはこちらをお読みください。
ワイン売場づくりの今がわかります。

●wine@EBISUのバーチャル・マーチャンダイジング

4.来店客はPOPを読むのか

ワイン売場のIPは

・大分類/ 国別
・中分類/ 赤・白・ロゼ
・小分類/ 価格

または

・大分類/ 赤・白・ロゼ
・中分類/ 国別
・小分類/ 価格

になっているのがよくあるパターンです。
ですが、自分にとっての定番とは、国や地域よりもやはり味が優先なのではないでしょうか。
国や商品ブランドがいくらよくても味が自分に合わないと話になりません。
ワインやコーヒー、クラフトビールは、香りもあります。

味や香りの情報をPOPに書いてある店はPOPを読めば、商品のだいたいの感じは掴めます。
しかし商品名と国や品種だけで、味と香りが書いていない店もあります。

根本的に、いちいちPOPの文言を読むのは面倒でしょう。
この売場のPOPを全部読む人は少ないです。
マトゥアというワインはよく買うんですが、最初から一度もPOPを読んだことがありません。
マルボロが好きでボトルのデザインと価格で買った商品だからです。
POPの本文が小さいし、読む気にならないというのが本音です。

とすると、メイン売場に来てPOPを読まない客はもう「セレンディピティ」に身を任せてワインを探すしかありません。
セレンディピティとは、「偶然の出会い」という意味です。

●VMDとセレンディピティ

しかし、なんとかPOPを読ませる工夫はできると思います。
一番いいのが、読ませるのではなくパッと見て視覚的にわかることです。

文字よりもレーダーチャート
渋味・酸味・果実味・辛口・甘味などをレーダーチャートか横棒グラフにする。
文字よりもアイコン
イチゴ・カシス・マンゴー・オレンジなどと香りや味を表すアイコンを表記する。
●文字よりも色
ライトからフルボディに至るまで、POP自体の色の濃度を変えていく。

この上で、パンチのあるキャッチコピーをPOPに添えれば、ある程度はイメージは付くと思います。
例えば、私がワインカードに書いているフレーズはこんな感じ。

  • 洋ナシ・パインが甘く香る辛口ワイン
  • パイナップルの味がバツグン、中庸な味
  • リンゴ、ライムのまろやかな辛口ワイン
  • ミネラル感豊富で塩っぽいウイスキー味のワイン
  • パインとはちみつのフルボディワイン

と、だいたいフルーツの味をキャッチにもっていっています。
これと似た感覚でPOPをつくっているのが、カルディ。
短いキャッチコピーとイメージ写真、そしてカラフルな色づかいのデザインが印象的です。

カルディのワインPOP1
カルディのワインPOP

エノテカのような高級ワインを扱う専門店は、このような派手な書き方は、特売売場かエンドおススメ商品のPOPに施しているくらいでしょう。
メイン売場のPOPはエンドと違う落ち着いたデザインになっていて、3行×13文字の商品案内を客にじっくりゆっくり選んでもらうようになっていると思います。

エノテカと対照的に、カルディのワイン売場はエンドやメイン売場という区別がしにくく、ワイン棚が入り組んでいて、一様に探すことができない宝探し店舗になっています。
ただし、赤・白・ロゼ・発砲に加え、国別価格別にグルーピングはアメーバだけれどある程度くくりはできています。
この店はセレンディピティに期待して探す店であり、1000円台の価格帯メインで安くておいしいものが多いので、失敗しても損は少ないのがいいところ。

カルディのように、大衆向き店舗として店全体が特売しているところは、客がセルフでセレンディピティ的に買う店、と割り切った方がいいかもしれません。

5.「エンド」ユーザーに標準を合わせるのも手

と、ここまでいかに店内にお客様を誘導して、自分の定番を見つけさせるかについて述べてきました。

ただ、メイン売場に行ってワインを買い、その経験値を蓄積し、その中から定番を見つけ出す、というお客様は少ないかもしれません。
「定番はエンドの商品だ」という方が多いと思います。
メイン売場で探すよりも、エンドやテーブルに置いている「お得商品」「おススメ商品」をいつも買う方が楽でしょう。

モノがありあまり多品種が同時に展開している売場は、化粧品にしてもワインにしても買い物が面倒くさい一因になっています。
現に、先週の番組「ニュースキャスター」では、「商品が探しやすいのは6種類まで。それ以上だと何を買っていいのか迷う」という買い物の定説を紹介していました。
毎日着る服をコーディネートごと貸し出したり、はては日曜日の過ごし方まで指南するアプリも登場しているとか。
それだけ、買い物や日曜の過ごし方まで考えるのが面倒になっている人が多いのが事実みたいです。

以前、ワインソムリエの方が言った言葉で印象深いものがありました。

「ワインショップはライトユーザーからヘビーユーザーに顧客を育成して客単価を上げていく、という戦略は必ずしも有効ではない。
むしろ、ライトユーザーはずっとライトユーザーでいてもよい」

これは一理ありました。
「定番はエンドの商品だ」というお客様がいても悪くはないと思いました。

これは先ほどの「インテリジェントコンシューマー」理論と違う考え方です。

●「インテリジェントコンシューマー」理論

ライトユーザーをヘビーユーザーに無理に育成するよりも、不特定多数のライトユーザーのままをキープするという考えもおもしろい。
このようなお客様は永遠に店の奥に行ってワインを選ぶ行為はしないでしょう。
いつもエンドの特売やオススメを買う「エンドユーザー」でい続けます。

顧客にはいろいろなクラスターがあって、無理にアップユーザーに引き上げない「エンドユーザー戦略」も有効。
この考え方は、あらゆる嗜好品にあてはまるのではないでしょうか。

・釣り
・楽器
・CD
・ゲーム
・映画
・スポーツ
・旅行

などなど。

よく思えば、私もJAZZは聴くけど、いちいちうんちくなどかまってられない。
ミュージシャンがどうとか、歴史はどうとうかはいいんです。
ただ音楽がおもしろければ。

こういう人でもレコード1000枚、コンサート100回は行く人もいるでしょう。
ライトユーザーだからと言って、お金を出さないということではないんです。
むしろライトユーザーの比率を大きくして、お店のロイヤリティを高くし他店へ行くのを阻止する戦略にするとよいでしょう。

エンドの商品をライトユーザーにいつも買っていただく、「エンドユーザー戦略」、ぜひ考えてみましょう~。

(vmd-i協会事務局)