無印良品」タグアーカイブ

アパレルのPPとIP

VP,PP,IPとは

1.VP,PP,IPとは

VP,PP,IPとは、ディスプレイの種類のことです。
ディスプレイの種類は3つあり、種類ごとにタイプ・場所・役割・構成が違います

それぞれ、下記の様に要約します。

●VP(ビジュアル・プレゼンテーション)
タイプ/ 展示
場 所/ 店舗の入り口、ゾーンの入り口、インショップの入り口
役 割/ 通行人もしくは来店客に、店や商品に関心を持たせ、立ち止まらせる。
構 成/ タイト、トライアングル、リピテーション、シンメトリー他

●PP(ポイント・プレゼンテーション)
タイプ/ 展示
場 所/ 商品グループの売場上部、売場手前、売場横
役 割/ 店内を歩いている来店客に、商品に関心を持たせ、引き寄せる。
構 成/ タイト、トライアングル、リピテーション、シンメトリー他

●IP(アイテム・プレゼンテーション)
タイプ/ 陳列
場 所/ 什器の中・上、テーブルの上、冷蔵庫・車など大きな商品は床に直置き
役 割/ 店内にいる来店客に、商品を選択・購入させる
構 成/ 等間隔、タイト、リピート、シンメトリー他

次にVP,PP,IPについて個別に述べるとしましょう。

2.VPについて

一番わかりやすいのが、ショーウインドウです。
すなわち百貨店やアパレルショップのウインドウがVPとなります。

通行人の目を留め立ち止まらせるのに有効な手段と言えるのがこのVPです。
若い女性がウインドウのウエディングドレスに見入ったり、子供が楽器店のトランペットを凝視したりするシーンをイメージできると思います。

VPは、ウインドウでなくてもOKです。
路面店よりもショッピングモールやGMSにテナントとして入居している店は、そもそもドアがなくウインドウもありません。
なので、店頭の展示台にマネキンを置いてVPにしている店はたくさんあります。(下記写真)

アパレルテナントのVP

VPのディスプレイは、店内で販売している商品を展示するのが最低条件です。
なので、単なる花のブーケやクリスマスツリーを置いてもそれはVPになりません。
販売する商品を置かないとVPの意はありません。
また、店内商品をただ置くだけではなく、テーマ性を持って展示するのが原則です。

テーマとは、「お客様が感じること」を言います。
Tシャツ3枚とGパンを置けばよい、というものではありません。
それを見ても、ただTシャツ3枚とGパンがあることがわかるだけです。

  • どこでどんなシーンで着るとよいのか?
  • どんな人が着ると様になるのか?
  • どんなテイストを醸し出してくれるのか?

など、客がVPを見ただけで服を着た情景が浮かぶようにしなければいけません。
例えば、ナチュラルなTシャツとショーパンのデニムをマネキンに着せて、リュックサックを掛けて駆け出すようなしぐさをマネキンに持たせます。
すると、アウトドアというテーマをお客様が感じるのです。

VPは通年計画としてローテーションするのが常で、1週間から1か月単位で変えていきます。商品は時間とともに変わるからです。
通常は、VPに店の打ち出し商品を出すケースが多いです。
アパレルショップなら、店側がその時強力に推し進めたい商品や色、素材、デザイン、シルエットをテーマ設定に基づいてVPとしてディスプレイすることになります。
基本的には、VPは店やゾーン全体を代表するディスプレイと捉えるとよいでしょう。

参考)
●テーマとは

3.PPについて

PPもVPと同じ展示の仲間ですが、VPよりも即興性の強いディスプレイと言えます。
店舗の代表的なディスプレイであるVPに対して、PPは売場の代表的なディスプレイであるため、カセットまたはコーナーと呼ばれる商品グループに連動して決めます。

こちらも展示のため、陳列棚と分けてディスプレイする必要があります。
商品見本展示の意味合いが濃いため、商品グループ直上に置いたり、突き出しテーブルの上に置いたりします。
服の場合はハンガーやマネキンを使うことが多いので分かりやすいと思います。
下記写真の什器上部、壁面上部にあるのがPPです。

PPもVPと同じくテーマ性が必要です。単純に什器の上に商品を一つ置いてもPPとは言えず、「在庫が置いてある」としか見えません。
VP程入念なプランは要りませんが、先ほどの審美性のセンスはほしいものです。
服だったらどんなテイストを発進するか、キッチン用品だったらどんな料理がつくれそうか、おもちゃだったらどんな子供向けにぴったりか、などのテーマを考えてつくります。

なお、PPについてはVPとあいまいな場合が多いので、あなたの店に合った定義が必要です。
それにつきましては下記参照ください。

●ディスプレイの定義をつくろう

4.IPについて

ドラッグストアやコンビニは、店舗デザインやオペレーションの都合上、VPやPPがない場合が多いのですが、最低IPはあります。
IPこそが、客が時間をかけずに

・商品を理解し
・ほしいものを選択でき
・掴んでかごに入れられる

便利なディスプレイです。
下記はスニーカーのIPです。

流通業界では「棚割りをする」という言い方がありますが、これは什器の棚に商品を置く位置決めをするということで、IPもこの働きをするものと考えてください。
ただし、IP=棚割りではありません。
フェイシングと言い、商品がよく映える置き方を考えたり、ハーモニゼーションと言ってリズミカルな並べ方をしたり、と棚割り以上のスキルが求められます。

このIP、難しいのは流動性があることです。
VPやPPはある程度の時間そのまま放っておけますが、IPは忙しい棚のため、欠品や補充が常です。
朝の始業時はきれいな棚だったのに、時間がたつにつれ、崩れていきます
お客様が商品を出し入れ、店側が商品を出し入れするからです。
現場のスタッフのメンテナンスが行き届いている棚はいつもきれいで、歯抜けがありません。
それは棚が乱れたらどのように対処するか、のIPコントロールのスキルが現場にあるからです。無印良品の棚がいつ行ってもはきれいなのは、現場教育がしっかりしているからでしょう。

また、客は商品をひとつひとつ眺めて店内を歩くわけではありません。
商品のカタマリである売場全体をサーッと眺めて歩きます。

売場という大きいくくりは商品で構成されていますが、IPが美しくないと売場全体のたたずまいは汚く見えます
商品を突っ込んただけの棚では、倉庫のようなたたずまいと化すだけです。
美しい売場のたたずまいは、それが壁であれ、島什器であれ、Gケースであれ、IPの総合力がモノを言います。
商品の量、色、置き方、並べ方など、什器1台~5台位を一つの売場単位としてIPを組み立て、たたずまいが美しく見えるようにしましょう。

VP,PP,IPをもっと勉強したいという方のために、毎月ディスプレイセミナーを行っています。
下記で日程とタイトルを確認ください。
●オンライン・センスアップセミナー

(VMDインストラクター協会事務局)

買い物客の手2

VMDとは何か?

VMDとは、当社ホームページに定義してありますが、今回はさらに掘り下げて解説します。
●VMDとは
それでは行ってみましょう~。

1.売場づくりには手法がある

VMDとはビジュアル・マーチャンダイジングの略で、売場づくりのノウハウを言います。
一般の人にとっては、売場づくりには手法がある、というと何それ?という人も多いと思います。

お店のこと?それとも商品が棚に収まっている陳列のこと?
いろいろな解釈があるでしょう。

端的に言うと、売場は「売る場」です。
だから店員さんがいる空間で、店員さんがモノを売っている空間、と解釈できます。

売場に手法なんているの?
仕入れた商品をただ棚に置けばいいんじゃないの?
そんな風に思っている人も多いと思います。
事実、流通業以外にいる方に「VMDって知ってる?」と聞くと、ほとんど「知らない」と言います。
自分たちが普段行くコンビニやドラッグストアは、仕入れた商品を単純に棚に置いている、と思っています。

私は、以前広告会社にいました。
モノを売る前段階の、モノをPRする側にいました。
20年いた広告会社をやめて、オーバルリンクというVMD会社をつくろうとしていました。
「売場づくりの広告会社つくるんですよ」と同僚に行ったところ、「何それ」「売場づくりなんてどうでもいいんじゃないの」と返してきました。不信そうな顔です。

モノを売る、というのはマーケティングといってとても大事な経済活動です。
モノを売る行為があるから広告会社が存在する、と言っても過言ではありません。
広告はマーテケィングの重要なツールです。
テレビ・ラジオ・新聞・雑誌はもとより、SNSなども大事な広告です。

しかし、VMDという新しいマーケティングもあるんです。
売場で商品をPRする、それこそがVMDだと思って起業しました。

でも、皆さんはこう思うでしょう。
マーケティングなのに、なんでマーチャンダイジングなの?

マーケティングとは、モノやサービスを売るための企業・団体や個人の販売活動を言います。
マーチャンダイジングは、品揃えのことを言い、仕入れてモノを売る企業・団体や個人の商業活動をいいます。
マーチャンダイジングは、マーケティングの部分集合と考えてよいでしょう。

2.ビジュアル・マーチャンダイジングとは

なので、広義のビジュアル・マーチャンダイジングは、「どんなモノを売っているのか、目で見てわかるようにしろ」ということになります。
ところが売りモノというのは、季節や場所、売る対象者、トレンドなどによって目まぐるしく変わります。
通常の売場というのは、1年中ずっと同じものを置いているわけではありません。
MDの5適とは、1.その時期に、2.その場所で、3.そのお客様にふさわしい商品を、4.適正量と 5.適正価格で売る ことを言います。
ビジュアルマーチャンダイジングは、この5適を目で見てわかるようにしなければいけないのです。

VMDの最大のメリットは、目的買いでなく衝動的に買わせること。
例えば、タバコはほとんどの方が目的買いです。
衝動的にタバコを買うというよりも、切れたら買う、というものです。

  • 買うつもりがなかったのに買っちゃった。
  • 入るつもりがないのに、お店に入っちゃった。

これが、流通業者が一番求めていることかもしれません。
もともと買うつもりのなかった客に、自社の商品を即買わせるということは、自社の売上に貢献すること大です。
特に食品や化粧品・服を含めた日用品などは価格は比較的安いので、その場その時が勝負です。

高価な時計・家電品・インテリア・自動車・住宅なども同様。
今は買うつもりがないけど将来的に買うといいかも、を演出できるでしょう。
価格の安い日用品と違い、熟考に掛ける時間が必要ですので、その場で買うということはあり得ません。

  • 今の自分、将来の自分にプラスになりそう。
  • いつか買うといいかも。

と、ビジュアル・マーチャンダイジングできっかけを与えることはできます。

こう考えると、VMDは人々の生活を瞬間的にも、将来的にも豊かにできる売場づくりのノウハウと言えます。
生活を快くできる機会を与えてくれる売場、それが「快場」へつながる一歩になります。
本来、快場は「心地よくショッピングできる売場」を意味しましたが、これに加えて上記の意味も含まれるんです。

3.VMDの4大要素

VMDをもう少し掘り下げていきましょう。
VMDには下記の4つの要素があり、それが快場をつくる源になっています。

  1. ショップ空間
  2. 品揃えと展開
  3. ディスプレイ
  4. 体験販促

個々に解説します。

1.ショップ空間

商品は店というハコの中で売られています。
コンビニというハコ、スーパーというハコ、百貨店というハコ。
ハコとは、床・壁・天井で囲まれた空間です。
大概の商品はハコの中に収まっています。

この空間には、ブランドの世界観というものがあり、それぞれ店名というブランドネームがついています。
無印良品、伊勢丹、マツモトキヨシ、カインズなどなど。
ハコの中はショップブランドの世界観で充満しています。

※空間のブランドの考え方は下記を読んでみてください。
●VMDとは空間のブランディング

例えば、無印良品に入ると、白い床に木材でできた背の高い什器、商品が整然とボリューミーに並んだ棚、廃材でできたカウンター、などなどシンプルで自然を重んじる無印良品の世界観が広がっています。
銀座や梅田にあるような旗艦店ほどブランドの世界観を強く打だしています。
インターネットでも同じ商品は買えますが、ブランドの世界観を感受することは、お店に行かなければ得ることはできません。

2.品揃えと展開

品揃えとは、先ほどお話ししたマーチャンダイジングそのものです。
品揃えは売れればなんでもいいかというとそうではありません。
流行っていてみんな買っているから自店の品揃えに追加する、というものでもありません。
商品はショップ空間の中にありますので、ショップの世界観に沿った品揃えが基本です。
先ほどの例ですと、無印良品はハコがナチュラルでシンプルにできていますので、そこで売られてい商品もまたシンプルでナチュラルなんです。
ユニクロのように派手な色のTシャツやパーカーなどないですよね。

さて、「展開」というのは、入荷した商品をどこに置くか?ということです。
商品は段ボール箱に入って店に入荷されます。
そしてあなたは商品を段ボール箱から出して棚に並べるはずです。
これを「展開」と言います。
展開は、ゾーニングというフロアの区分、展開分類というお客様目線の仕分け、棚に置く数量を調整する定量、などが作業内容になってきます。

回遊しやすくて、どこに何があるのかすぐわかり、商品が比較検討しやすい、歩いて苦にならない。
そういうお店は展開がうまいです。

3.ディスプレイ

ディスプレイとは、商品を展示したり陳列したりすることを指します。
大昔の店は、陳列自体ありませんでした。
客が来ると注文を聞いて奥から商品を持ってきて売りました。
つまり店とは、商品は言わないと出さない、という空間でした。
何年か経ち、人前に商品をズラーと並べて売るようになったのは、イスタンブールのバザールが最初だったそうです。
トルコ旅行の時に学びました。
今でいう青空市のような感じです。什器はほとんどありません。
しかし、自分の買いたいものが目で見ることができる、これこそがディスプレイの効能です。

現代のディスプレイは大きく分けて展示と陳列があります。
展示というのは、商品の見本展示のことです。
アパレルショップのウインドウや壁の上部分に飾られているディスプレイが展示です。
ドラッグストアやスーパーなど陳列主体で棚にぎっしり商品を置いている店舗でも、棚のわずかなスペースに展示をつくり訴求するケースがあります。
例えば、雪肌精やSKⅡ、モエエシャンドンやメルシャンの棚などが展示をしています。

このディスプレイ、テーマというものがあります。
単に商品を置いて見せるだけでなく、どんな時に使用するのか、どんな気分になれるのか、どんな効果があるのかなどが、テーマでわかるようになっています。
それが前述の衝動買いを促進させる力になっています。

陳列に関しては、商品を整理整頓して、わかりやすく選びやすいようにする力があります。
同じ商品でも、メーカー別、味の違い、色の違い、価格の違いなどいろいろあります。
それらが一目でわかり、選択比較でき購入しやすいようにディスプレイしなくてはいけません。
お客様にとってはほしいものがすぐに見つけられますので、時間の節約この上ありません。

4.体験販促

いまは昔と違い、ネットで当たり前に買い物をする時代になりました。
今年は「タイパ」が流行語になりました。
映画鑑賞や読書だけでなく、買い物もタイムパフォーマンスが当たり前になり、ネットでモノを買う「買い物タイパ」が当たり前になりました。
そしてリアルの売場は、客がわざわざ来てくれる場所になりました。
売場は今以上に、客に体験をしていただく場になっています。

商品が試せることはいうまでもなく、店員がアドバイスしてくれる、学習できる、人と集えるなど、リアルだからこそできる体験販促が店にとって必要になりました。

体験販促で古くからあるのは、試飲・試食・試乗・試着などがそう。
イセタンミラーのような誰でも相談できるカウンセリングカウンター、高島屋家具売り場のような、バーチャル3D間取り体験など体験販促の進化は著しいです。

特に今は「売らない売場」が百貨店では流行っていて、モノを試す、店員と話すなどショールーミング化しているのも体験販促の表れです。

今年は、当社も人がいないセルフワインバーでイベントを行いました。
ゲーム感覚でワインが飲めるワイパーは、買い物そのものを楽しむ体験の場になっています。
●wine@EBISU

4.VMDで売場を快場にしよう

売場づくりには手法があると、ということ、分かったと思います。

日本にVMDの考えが伝わったのは1970年代。
前後、マネキンメーカーが米欧に刺激を受け、マネキンとともに日本にやってきたのがVMDです。
その歴史的背景もあって、VMDは百貨店やブティックのウインドウづくりの技術という考え方が長い間席巻していました。
でも今は違います。
日用品を扱っているコンビニ・ドラッグストアはもとより、家電量販店やホームセンターもVMDを導入しています。
そして、カーディーラーやバイクディーラー、住宅展示場などと言ったショールーム型店舗もVMDを活用しています。
さらに、不動産、保険、レストラン、カフェと言った物販ではなく、サービスを提供する店舗もVMDを導入するに至ります。

そして今、VMDはバーチャルVMDの時代へ。
ネットで店舗や商品空間を体験できる、メタバースの時代が到来しました。
VMDをバーチャルに生かす技術をこれからも考えていきたいと思っています。

●バーチャル・マーチャンダイジングとは

VMDを詳しく知りたい方は、当社セミナーへお越しください。
毎月オンラインで開催しています。

●オンラインVMDセミナー

(VMDインストラクター協会事務局)

ホノルルクッキーカンパニーの店頭

白壁を直して来店客を増加させよう

1. オーケストレーションとは壁面の集合ディスプレイ

今回はオーケストレーションの話をしましょう。

オーケストレーションとは、壁面の集合ディスプレイのことです。
もともと「オーケストレーション」は、楽隊編成の意味です。
わがオーケストラは、どこにピアノを配置して、どこにバイオリンとクラリネットを配置するか・・・などなど楽隊の指揮者から見たポジションを決めることを言います。

同じように、店内の壁を構成する要素をどのように配置するかが、オーケストレーションという手法なんです。
オーケストレーションは、壁面の集合ディスプレイと言い換えてもけっこうです。
壁面ディスプレイの要素は下記です。

  • 壁そのもの
  • 商品陳列
  • 商品展示
  • POP
  • プロップス(装飾品のこと)

論より証拠。
オーケストレーションの実際を見てみましょう。

これはホノルルクッキーというお菓子店。
通りからお店を覗いた写真です。
店内右側の壁を見てください。
クッキーの箱がたくさん並んでいるのがわかりますよね。
詳しくはわからないけれど、なんか楽しそうなお店。
入ってみようかな~って気になりますよね。

実際に入ってみましょう。
上の写真はドアを開けたところ。
見事な壁面の集合ディスプレイが目に飛び込みます。
いろんなクッキーが壁一面にディスプレイされている~。
ウキウキしちゃう!!って感じになりますよね。

これがオーケストレーションの効果です。
壁面の集合ディスプレイって店頭を歩いている客を店内に引き込む作用があるんです。

ホノルルクッキーカンパニーはハワイのチェーン店です。
そのVMDの魅力はこちらで詳しく解説ています。
●店舗視察のコツ~お菓子店事例

2. どんな店がオーケストレーション効果があるのか?

今度はオーケストレーションが発揮されているいない店舗を見ましょう。
上の写真はセブンイレブン。
会社の帰りに撮影しました。
奥の壁が白くなっているのがわかります。

お店に近づいてみましょう。
奥の壁面に何もないのがわかりますね。
強いて言うと、POPがちょこっと貼ってあるくらい。
このお店の壁面什器は1.8mまであるけれど、そこから上は白なんです。

これはなぜでしょうか。
なぜ、先ほどクッキー店みたいに壁いっぱいにディスプレイしないのでしょうか?
それは二つの理由があるからです。

1つ目の理由として、コストがかかってしまう点です。
コンビニは、客がさっと入ってさっと出る店です。
その時生活に必要なものを売っているライフライン店舗なので、多くは目的買いです。
オーケストレーションの運用には、手間暇がかかります。
・ディスプレイをつくる時間とスキルなどの人件費
・ディスプレイ資材コストと、それを集めるコスト

これはコンビニの低コスト運営に逆行します。

ただでさえ、人がいなくて忙しいのに毎週毎週壁面ディスプレを考えたりつくっている暇はないということです。
オーケストレーションに手間暇かける位だったら、販売の自動化とかレジ周りの効率改善にコストかけたいというのがオーナーの気持ちでしょう。

2つ目の理由としては、コンビニは環境VMDとは縁がない店舗ということです。
環境VMDは別名エンバイロメンタルVMDといい、店内空間にブランドの世界観を与える手法で、菓子店や雑貨店、セレクトショップなどが好んで使っています。
MDはもとより、ショップデザインやMDP(ディスプレイ)を使って店内空間にブランドの世界観をつくりあげます。
例えば下記のような店です。

  • 無印良品
  • スリーコインズ
  • ユニクロ
  • フランフラン
  • アフタヌーンティー
  • ゴディバ
  • 212キッチンストア
  • ディズニーストア
  • ハンズ
  • ルルレモン etc

これらの店は、ただ商品を買う店ではなく、店内回遊してお気に入りの商品を探したり、買って生活を楽しいものにしたい商品が満載です。
コンビニのように間に合わせの商品を買うお店ではないのです。

そのような店は、店内のデザイン環境を気分よいものにしなければいけません。
ただの白い壁で四方を覆うようなお店にしたら、会議室で商品を買うようなさみしい気持ちになります。

スリーコインズを通りから見てみましょう。
壁がディスプレイで埋め尽くされていますよね。
なーんか、掘り出し物がありそうな予感!!ちょっと寄ってみよう。
という気になりませんか。

こんな感じで、気持ちをわくわくさせるようなライフスタイル店舗はオーケストレーションを用いて壁面で来店客を魅了させる仕掛けが必要なんです。

逆に、コンビニ、ドラッグストア、スーパーマーケット、ホームセンターのような「生活必需品」をメインとしたライフライン店舗は白壁でもいいかもしれません。

ただし、同じドラッグストアでもテイストを重んじる店は、白壁にデザインを施しています
例えば、アインズアンドトルペです。

写真を見てわかる通り、カテゴリーネームとイラストを施したオシャレなデザイン。
ファッション感度の高い丸井や西武のフロアにも出店しているほど、若い女性に人気のコスメのセレクトショップです。

3. オーケストレーションの3つの区分

オーケストレーションの構成要素は、大道具・小道具・商品です。
壁面を舞台と思ってください。

  • 大道具は、壁面のデザイン、そして什器
  • 小道具は、什器に載せるプロップスや販促物
  • 商品は、陳列や展示に使用する商材一式

ハワイのクイックシルバーの壁面を見てみましょう。
大道具部分は壁面のウッドフェンス。
そして天井のサーフボードのオブジェ。

小道具部分は、写真やポスターのフレームとサーフボード。
商品部分は、PP(商品展示のこと)としてのトルソ、そしてその下のTシャツとショーパンの陳列がそうです。

この3つの構成は、通常なら下記の様に担当が分かれているはすでず。

  • 大道具部分・・・店舗デザイナー
  • 小道具部分・・・デコレーター
  • 商品部分・・・・VMD

上はディズニーランド内のお土産ショップ。こちらも同様です。
壁面は3セクションに分かれていて、壁の上から言うと、下記になります。

  • 大道具部分・・・アーチ型壁面とキャラクターの造作物は店舗デザイン部署が担当。
  • 小道具部分・・・最上段のPPディスプレイ棚は、デコレーター担当。
  • 商品部分・・・その下の商品陳列は、VMD担当。陳列の研修をキャストにしている。

オーケストレーションはまさに部署間の共同作業といっていいでしょう。
無印良品がなぜ完璧までに全国のオーケストレーションを構築できるかは、部署間の共同作業によるルーティーンがなされているからです。

4. オーケストレーションのさまざまなタイプ

先ほど述べたように、大道具・小道具・商品という区分で担当者が分かれているのが、オーソドックスな体制ですが、例外はたくさんあります。

IP(商品部分)を壁面の下部基準とした場合、下記のタイプがあります。

  1. 壁面上部もIPタイプ
  2. 壁面上部はインテリアディスプレイタイプ
  3. 壁面上部は広告スペースタイプ
  4. 壁面上部は質感のある壁タイプ

写真を見ながら説明します。

1. 壁面上部もIPタイプ

これは、天井まで陳列がずっと続いているタイプ。
無印良品やラコステが普通に行っています。
無印良品は天井近くまで布団やレトルトカレーを陳列していますし、壁面を覆っているラコステのポロシャツ売場は色のグラデーションが効いています。
商品のボリューム感が出ている上に、色の帯がきれいなので、来店客はついつい壁面に注目してしまいます。
写真は、ラルフローレンのウオーターフォール。
色の配置はグラデではなくてチェッカー状にしてメリハリをつけています。

2.壁面上部はインテリアディスプレイタイプ

商品の世界観を象徴するオブジェやフレームなどをディスプレイするタイプ。
単純に造花や壺を展示している例(上の写真)もありますが、商品を絡ませて生活スタイルを表現したり、風景写真を掲示して生活のシーンなどを表現する方法などがあります。
下記はポスターを使用した、アパレルショップのインテリアディスプレイの例です。

ポスターは必ずしも商品と直接結びついてはいませんが、生活のシーンやテイストを売場に与えています。

3. 壁面上部は広告スペースタイプ

大きなPOPを壁面上に掲示して、遠くの客を引き付けるタイプです。
例えば、上の写真は年賀状の広告になっています。
これはプリントショップのオーケストレーション。
また、駅や空港の土産店のようにお菓子の広告を電照広告形式で掲示している例もあります。

メガネやスマホなど商品が小さい場合、最上段は広告スペースにした方がよいでしょう。
例えば、メガネを一つ二つ最上段にPPとしてディスプレイしてもほとんど遠目でわかりません
その場合メガネのフレームを大写しにしたブランド名入りのポスターを掲示した方がインパクトがあり、遠目でもわかります。

4. 壁面上部は質感のある壁タイプ

壁の質感を出すために、壁をそのままにしておくタイプです。
壁をわざと見せます。
単なる白壁ではなくて、テラコッタや板張りの壁は、壁そのものの質感(マテリアル)が来店客に伝わり、商品ブランドやショップブランドのテイストを助長させます。
例えば、上の写真は米国アンソロポロジー。ライススタイルショップです。
キッチン用品の売場ですが、凹凸のある土壁がボヘミアンなブランドテイストを助長させています。

5. 白壁を改善して入店客を増やす

私たちはお店のリバイスをするときに、「白壁」をどうやって魅力的にするか、よくプランします。
壁自体をディスプレイとみるオーケストレーションは、今話した方法で店の前を歩いているお客様を入店させることができるからです。

いままで数々の店舗にオーケストレーションを導入して、入店率や売上をアップさせてきました。
30%の入店率アップ、売上20%アップなど、具体的な数字結果をもたらした店舗は多いです。

オーケストレーションは、下記のセミナーで詳しくお話ししています。
●商品陳列の仕方

このセミナー、来年(2023年)になりますが4月と7月開催予定です。
白い壁面を直したいと思っている方、ぜひお越しください。

(VMDインストラクター協会事務局)

自店の店舗デザインはどうあるべきか

デザインとは何でしょう。ウィキペディアでは次のように定義しています。
「ある物事について、それを真に理解し、ふさわしい姿を与える。そのとき顕れた美しみを、人々はdesignと称する。」

これを、A店を新装する場合に置き換えてみましょう。
「新装するA店舗において、それを真に理解し、ふさわしい姿を考える。その結果、新しくできたA店舗表現を、人々は店舗designと称する。」
こんな感じだと思います

さて、「A店にふさわしい姿」とは何でしょうか?
ふさわしい店舗の姿というのは、店舗ブランドによって違います。
ユニクロのふさわしい姿は無印良品とは違い、スターバックスのふさわしい姿はドトールコーヒーとは違います。

ユニクロは色とりどりのにぎやかな姿であり、無印良品はシンプルでナチュラルな姿です。
スターバックスはモダンで落ち着く姿ですが、ドトールはさっと入ってさっと出るピットインのような姿です。
だから小売店を営んでいるあなたは、自店のふさわしい姿とは何か?から店舗デザインを考えなければいけないのです。

よく見る有名店舗のデザインを模倣しても仕方がありません。
そのような行為はあなたのお店の顧客を遠ざけるでしょう。
今回は、自店の店舗デザインをどうやって決めるか、お教えします。
それによって、店舗デザインを施工会社に丸投げする常態から脱却できるのです。

さて、VMDとはビジュアルマーチャンダイジングの略で、直訳すると「品揃えを視覚化する」ノウハウです。
実はVMDにおける店舗デザインは、通常思いつく建築デザインよりも定義が広いんです。
店頭・床・壁・天井・什器のデザインだけではない、下記の4分野のデザインを担います。

  1. ショップデザイン分野 →店頭・床・壁・天井・什器・照明など、店の構造物全般
  2. マーチャンダイジング分野 →商品のパッケージデザイン・包装紙・ショッピングバッグ、場合によってはプロダクツデザインそのもの。商品に関わるもの全般
  3. ディスプレイ分野 →マネキンや展示台などのディスプレイ用品、花や壺などの装飾品、ウインドウディスプレイ、商品群の佇まいなど、展示・陳列全般
  4. ロモーション分野 →ポスターや値札などのPOP、ビジョン、テーブルの腰巻・柱巻、バルーンなどの販促ツール全般

早い話が、店舗にやってくるお客様が見るものすべて、と考えていただければ。
したがって店員のユニフォーム、店員そのものも店舗デザインの一部であり、ここではプロモーション分野に入ります。
VMDを知ることによって、店舗デザインの監修ができる。自店にふさわしいデザインを決めることができるのです。

次に、店はコンセプトでできていることをお話しします。

店舗をハコです。
お客様はハコに買い物にやってきます。
そのハコのデザインを買い物しながら体感するのです。
床・壁・天井という構造物ひとつひとつに感心するわけではありません。
ハコの中の雰囲気を体感するのです。
きれいなパッケージの商品がたくさん並んでいる佇まい。
手書きPOPが林立している賑わい。
品のある店員の立ち振る舞いとユニフォーム。
これら目に見えるすべてのデザインが、場の雰囲気としてお客様に感動を与えているのです。

では、自店のハコのデザインをどうやって決めればいいか?
ズバリ店舗コンセプトを決めればよいです。
「わが店舗はどんな店舗なのか」という概念を言葉にしたもの、それが店舗コンセプトです。
あなたが店の経営者、バイヤー、SV、店長、店員、販促担当、商品開発担当という店舗に関わりのある方なら、店舗コンセプトを決めるのは必須です。

例えば、スターバックスは「第三の場所」という店舗コンセプトがあります。
家でも職場でもない第三のリラックスできる場所である、という意味です。
だから、店内は落ち着いたたたずまいになっているはずです。
ダークトーンの木のイスとテーブル、照度を落とした照明、漆喰の壁、そこに掲げられている絵画、そしてバリスタの威勢のいい声。目に見えるものすべてが第三の場所としてふさわしいデザインになっています。

このようにコンセプトは店舗デザインを決める考え方のもとになっているのです。
ほとんどのブランドショップにはコンセプトがあります。

例えば下記です。

  • SHIPS DAYSのコンセプト「眺めのいい日々と、居ごこちのいい服」
  • フランフランのコンセプト「好きな「いろ」で生きよう。笑おう。」
  • アフタヌーンティのコンセプト「spice of a day」

このコンセプトをテイスト、そしてトーンアンドマナーに意訳する作業をしましょう。
店舗コンセプトが決まれば、あとはそれをもとに前出の4分野のデザインに落とし込めばよいです。

ですが店舗コンセプトをそのまま業社に言っても伝わりません。
ここでクエスチョン!
例えば、あなたがPOP制作を外注するとします。

どのようにしたらよいか。下記からひとつ選んでみてください。

  1. なるべく優秀なデザイナーにデザインを丸投げする
  2. トーンアンドマナーをしっかりデザイナーに提示し監修する
  3. いつもの施工会社に頼んで店舗デザインに沿ったPOPを作成してもらう

答えは2です。

そう、トーンアンドマナーをデザイナーに提示しなくてはいけないのです。
トーンアンドマナーとはデザインのルールのことです。

「うちのコンセプトは「第三の場所」だからそのようなデザインにしてほしい」とPOPデザイナーに言っても伝わりません。
トーンアンドマナーを伝えないと店にふさわしい姿のPOPにはならないのです。

一番上の図を見てください。
これは店舗(ハコ)の構成要素です。
まずハコの左外の「デザインテイスト」に注目してください。
デザインテイストとは次のようなものです。

お客様は買い物をして出るまで店内で短時間を過ごします。
店内で目にするものはPOPだけでなく、商品だったり什器だったり壁紙だったりします。
スタッフも目にするし、テーブルのディスプレイも目にします。
この時、テイストというお客様の感じ方があり、「自然でナチュラル」「クールでモダン」「元気でにぎやか」「フレッシュでみずみずしい」などお店によっていろいろな感じをお客様は受けています。
これを司っているのがデザインテイストであり、デザインテイストはお客様の目に見えるすべてのものが発している感じや気持ちのことです。
その「感じ」をお客様は五感でハッシ!と受け止めるわけなのです。

チェーン展開しているあなたのブランド店舗もテイストを決めなければいけません。
それが空間ブランディングという行為で、同じ店なのに一方は都会的で一方は田舎っぽいとなると、妙な感じになります。
ブランドの世界観はないに等しいです。
無印良品やユニクロはどこに行っても世界観は一緒であるように、あなたのお店のデザインテイストは規格化しなければいけないのです。

VMDインストラクターはブランド空間の監修役なので、チェーン店全体のデザインテイストを統一して保つ役目を担っています。
チェーン店においては、POPはPOPデザイナー、商品はプロダクツデザイナー、床・壁・天井は店舗デザイナーなどと役割分担されています。
ところがデザインにルールがなくて、各デザイナーが好きなようにそれぞれ作ってしまったら、店内はいろいろなデザインでごった煮になるのです。
そうなると、お客様にとってどの店に行ってもテイストが違うため、店のブランド感はなくなり、よろず屋で買い物している感覚になってしまいます。
そうならないために、VMDの専門家はデザイナーにきちんとオリエンしなければいけないし、監修しなければいけません。
まずはあなたの店舗のデザインテイストを設定し、トーンアンドマナーを決めましょう。

最後に、トーンアンドマナー事例についておはなしします。
「屋根裏部屋のような秘密基地」とか「離島の人のいない自然観」とか「重厚で伝統的だがモダン」のような表現と模写でストーリーボードをつくり、デザインテイストをデザイナーに提示できるようにすします。
その上で、下記をチェックする。

「離島の人のいない自然観」の場合では、

  • 「離島の人のいない自然観」テイストが什器デザインに表れているか。
  • 「離島の人のいない自然観」テイストがPOPデザインに表れているか。
  • 「離島の人のいない自然観」テイストが定数・定量に表れているか。
  • 「離島の人のいない自然観」テイストがディスプレイに表れているかどうか。

POPひとつとっても、「離島の人のいない自然観」テイストの下、書体はどうあるべきか、レイアウトはどうあるべきか、POP用具はどんなものがよいのか、考える必要があります。

POPデザイナーにデザイン発注してできたデザインを校正する場合は、デザインがトーンアンドマナーに沿っているかチェックします。

施工会社の設計士と改装について打ち合わせするときは、壁紙の柄、照明の明るさ、什器のデザイン、床のパターンがトーンアンドマナーに即しているのか監修しなければいけません。
これを「トーンアンドマナーのフィルターを通してデザインを見る」といい、店内デザイン物を精査する際、このフィルターを通します。

だいたいわかりましたでしょうか、あなたの店のデザインの決め方。
「どんなお店にするか」明確化するコンセプトが決まらないと、デザインテイストも決まらず、トーンアンドマナーもつくることができないのです。

もしあなたの店舗にコンセプトがなかったら、まずはとりあえずでいいのでコンセプトを決めましょう。
でないと、「私はモダンなデザインが好きだから、こんな什器にする」みたいに経営者の好みで決めることになりかねません。

もしあなたの会社にVMD担当がいないのならば、担当を育成しましょう。
店のデザインの指南役をつくるのです。
担当はVMD知識に加えてデザインセンスを身につけ、設計図面を読めたり、コピーを書けたり、色のコーディネート術を身に着けたりと、デザインについての知識やスキルは磨いた方がよいです。
でないとデザイナーや設計者と会話できないどころか、デザイン丸投げになってしまうからです。
またそのような人材育成の余裕がない場合は、VMDインストラクターという職業人がいるので利用してほしいです。
文字通り、あなたのお店のデザインを教えてくれます。

(vmd-i協会事務局)

POP文体がブランドの個性をつくる

POPの文体について話ししますが、星のやが格好の材料になります。

まず、テラスBARのPOPを見てみましょう。

「夕日に沈んだ軽井沢の夜、テラスで過ごしてみてはいかがでしょうか。
お供にハーブティーとウイスキーを用意しました。
温かなハーブティーカクテルを片手に、涼しい夜風をお楽しみください。」

星野や軽井沢に滞在中、夕方部屋に戻ると、さりげなくこんなPOP(しおり)が、リビングに置いてありました。
その近くには、シーバスリーガル12年物とハーブが。

面白いのは、しおりの文体でした。
「夕日に沈んだ軽井沢の夜、テラスで過ごしてみてはいかがでしょうか」
なんだか洒落ています。
おせっかいだよ!!と言いたくなるような文章ですが、それでいいんです。
実に星のやらしい。
(実際飲みませんでした・・・)

次はこれを見てみましょう。
部屋の防虫スプレーの脇にあるPOPなんですが、こう書かれています。

「自然豊かな谷の集落では、四季を通じて様々な虫たちが暮らしています。
その環境ゆえに、時折彼らも客室にお邪魔してしまう場合がございます。
長時間の扉、網戸の解放にはお気をつけください。
万が一お部屋でお見かけの際には、集落の虫を知り尽くしたスタッフが伺いますので、フロント【7番】までご連絡をお願いいたします。」

これも、粋な文体。
ベランダにオオミズアオが飛んできていたので、その虫博士に蛾のこと伺ってみたかったです。
なんだか、キンチョールで虫を殺す前に、うんちくを聞きたい気持ちです。
(もちろんオオミズアオは殺しませんでした)

さて、

    • 売店のPOP
    • 部屋の案内ファイル
    • レストランのメニュー

星のや軽井沢の中のPOPの文体はどこも上記のような感じです。

文体がエッセーみたいな感じなので、カジュアルに読めて心が和みます。
たかが防虫スプレーの案内書きでも、それに添えられているPOPにぬくもりがあります。

普通のキャンプ場では、キンチョールが置いてあって、そこに「虫刺されにご注意ください」みたいなPOPが、赤字で貼り付いているだけでしょう。
でもここのPOPは、アイデンティティがあるので、なるほど星のやだ、という感慨を受けます。

売場塾のPOP指導講座では、書体の他に文体や言い回しのことも講義していますが、文体とは、まさにお店やブランドのアイデンティティから来るもの。
その人となり、そのブランドとなりが表現されていなくてはいけません。

私が好きな文体は、MUJIや中川政七商店のPOP。
ここのPOPコピーは単なる機能説明に終わっていないんです。
です・ます調であり、形容詞が豊富。感情的なんです。

まあ、なんといっても人気のある表現は、ヴィレッジヴァンガードのPOPでしょう。
あの人を食ったような書き方は、ヴィレヴァン独自の文化というか社風にもなっています。
商業界で読んだのですが、サリンジャー「ライ麦畑で捕まえて」という本のPOPは、「ジョンレノンを殺った男の必読書でした」という衝撃的な文句があったそうです!!
うーん、これは読んでみたい・・・となるかもしれません。

ちなみに私は、文体で好きなのは、週刊アエラの「現代の肖像」で、これは十何年も毎週読んでいました。
「現代の肖像」は同誌のシリーズで、毎回取材先と筆者が違います。
ただしアエラ編集者は毎回うまく文体をコントロールして、いつも言い回しはいっしょなんです。
このシリーズは、現代のがんばっている人を取材するドキュメンタリールポなのですが、その文体から取材された方の、生きるのに一生懸命な息遣いが聞こえてくるんです。
人の生き様を読むのが好きなので、いつもこれを読んでは感動しています。

実はこれに影響されすぎて、私の「VMDインストラクターのお仕事取材」の書き方も「現代の肖像」風になっています。(笑)

●VMDインストラクターのお仕事取材

ともあれ、POPはお店やブランドの個性を表すもの。
VMD担当の皆さん、POP文体や言い回し、研究してみましょう。

(vmd-i協会事務局)